遺言より強い遺留分

全財産を1人の相続人に相続させる遺言は少なくありません。

この遺言に従うと、他の相続人は、財産を一切相続できないことになりそうです。

被相続人の財産ですから、誰に渡すのも自由だという考え方も一理あります。

しかし、例えば、それまでずっと介護していたのに死亡直前に仲違いすることもあります。

死亡直前に悪い女に引っかかってその人に全部財産を相続させることにし、長年連れ添った奥さんに一切相続させないようにするケースもなくはありません。

更に死亡直前に、認知症が進行した状態で、訳もわからず書いたのではないかと思われる遺言もなくはありません。

つまり、あまりに徹底すると、可哀想な相続人が生じるリスクは少なくないのです。

このため、遺留分という制度があります。

遺留分とは、被相続人の意思によっても取り上げることができない権利です。相続人が遺留分の範囲での財産の取得を希望すれば、その人が取得することができます。

その裏返しとして、遺言によって指定された相続の内容はその範囲では無効になります。

遺留分が認められる範囲とその割合

遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に認められます。

兄弟姉妹というのは、配偶者や子、親などに比べると関係が薄く、互いにあまり依存せずに生活していることが多いでしょう。

その場合、被相続人の意思を無視してまで遺産を取得させる必要まではないと考えられます。

このため、法定相続分がある場合でも、遺留分はありません。

遺留分の割合は、原則として相続分の2分の1です。

例えば配偶者と子ども2人が相続人の場合、配偶者の遺留分は4分の1で、子どもの遺留分はそれぞれ8分の1です。

例外として、直系尊属のみが相続人である場合には、相続分の3分の1です。

もっとも、親しか相続人がいないようなケースで、親以外に財産の全てを渡そうというケースはあまり考えられません。

したがって、この3分の1の遺留分が問題になるケースはさほど多くないでしょう。
 

遺留分の請求方法

言うまでもないことですが、すべての相続人が、遺留分を請求したいと考えるわけではありません。

例えば、3人兄弟の内の1人が長年にわたり親と同居して、親が亡くなるまで1人で面倒を見たようなケースで財産が一緒に住んでいた家だけの場合、仲のいい兄弟なら、他の相続人(兄弟)も、その家は面倒を見た兄弟に相続させたいと考えるのがむしろ普通でしょう。

そこで、遺留分は、当然に認められるものではなく、請求の意思表示をすることで初めてもらえます。

かつては、遺留分の請求は、「遺留分減殺請求」という名前でした。これは、各財産について遺留分に相当する割合の権利を取得出来る権利だったのですが、2019年7月施行の相続法改正で、全て金銭で解決する制度に変わりました。

相続人がこれ以前になくなっている案件では改正前の法律が適用されますが、遺留分についてはかなり期間制限が厳しいので、早い段階で遺留分減殺請求が適用される案件はなくなるでしょう。

することになります。現金や預貯金等のように頭割りしやすいものはもちろん、そうではない不動産などでも、共有持分を取得する形になるのです。

例えば、兄A弟B2人が相続人のケースで、Aに財産を全部相続させる旨の遺言があり、実際の遺産は、2000万円の土地建物と、2400万円の預金であったような場合に、BがAに遺留分侵害額請求権を行使することで、(2000+2400)÷4=1100万円を請求出来ることになります。

なお、ここでいう土地の価格は固定資産評価額ではなく時価です。

したがって、金額に争いが生じる場合も多いでしょう。

当事者全員が合意すれば、固定資産評価額でまとめるという方法もありますが、多くの場合、固定資産評価額は時価より安価です。遺留分の請求をしているケースでは、多くの場合、請求者は自分の取り分が少なくなったことに不満を持っていますから、相続の事件の中でも対立が激しいことが多いです。

通常の案件よりも、時価をいくらにするかで対立するケースは多いでしょう。

なお、この例は比較的単純でしたが、相続人がもっとたくさんいたり、何人かに財産が分かれて相続された事例では、誰のどのような財産を取得できるかの検討は、相当複雑な手順になります。

下手に説明すると誤解を招く可能性が高いため、申し訳ありませんが、ここでは省略させていただきます。具体的な事案を直接ご相談ください。

遺留分減殺請求を裁判所の手続で争う場合は、家庭裁判所ではなく、地方裁判所に訴訟を提起することになります。

実際の事案では、例えば財産が実家の土地建物しかないなど、現金がない場合もあります。

そこで、遺留分侵害額請求の裁判では、裁判所は全部または一部の支払について支払期限を猶予する判断をすることが出来ることになっています。

廃除と遺留分の放棄

ある推定相続人には、遺留分さえも渡したくないというケースも中にはあるでしょう。

例えば、被相続人に虐待の末、大けがを負わせたなど、相続人自身に大きな問題がある場合は、渡したくないのが当たり前ですし、その意思は尊重されるべきです。そんな相続人が可哀想ということもないでしょう。

また、先祖伝来の土地を一人に相続させたいなどの理由で、どうしても遺留分の減殺請求をしないように段取りしておきたいこともあるでしょう。

この場合、相続人が可哀想になるケースもあり得るとは思いますが、本人が納得するのであれば、絶対に駄目とまでは言い切れません。

前者の場合について、推定相続人が虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたときは、家庭裁判所に廃除の請求ができることになっており、廃除された場合には、相続権自体がなくなります。

廃除は、生前にするだけでなく、遺言でも可能です。その場合には、遺言執行者が家裁に廃除の請求をすることになります。

後者の場合について、遺留分権利者が納得し、自ら家庭裁判所に申し立てて家庭裁判所の許可を受けた場合は、被相続人の生前に遺留分を放棄することが認められています。

したがって、遺留分権利者が遺留分の放棄の許可を受けた上で、被相続人がその人には相続させない内容の遺言を残せば、一切相続させないことが可能です。相続人は後から翻意して遺留分を請求したくてもできません。

相続問題で弁護士をお探しの方へ

大村法律事務所は依頼者の正当な利益を守るために、攻めの姿勢で、できる限りの手段をつくし弁護いたします。
相続問題は、広島で20年以上の実績、地域密着の大村法律事務所にお任せください。